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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)2357号 判決

原告(反訴被告)

羽場邦弘

ほか一名

被告(反訴原告)

近鉄大一トラツク株式会社

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)羽場邦弘に対し、金一七四万六一三二円及びこれに対する昭和五五年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)有限会社裕進運輸に対し、金一二九万七七八六円及びこれに対する昭和五五年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告(反訴被告)両名は、被告(反訴原告)に対し、各自金五〇万九九三三円及びこれに対する昭和五五年一二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

四  原告(反訴被告)両名のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をそれぞれ棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを五分し、その三を原告(反訴被告)両名の負担とし、その二を被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決の第一、第二、第三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告、以下被告という)は、原告(反訴被告、以下原告という)羽場邦弘に対し、金七一九万三四六〇円及びこれに対する昭和五五年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2 被告は、原告(反訴被告)有限会社裕進運輸(以下原告会社という)に対し、金二一一万五八四一円及びこれに対する昭和五五年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴について)

一  反訴請求の趣旨

1 原告らは、被告に対し、連帯して、金二五五万九九九五円及び内金二二五万九九九五円に対する昭和五三年九月六日から支払ずみまで、内金三〇万円に対する昭和五五年一二月九日から支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 本件事故の発生

(一) 日時 昭和五三年九月五日午前三時

(二) 場所 長野県塩尻市宗賀五一〇一の三先道路

(三) 事故の態様 原告羽場は、大型貨物自動車(以下「原告車」ということがある。)を運転して右道路を北進中、被告会社所有の大型貨物自動車(以下「被告車」ということがある。)を運転した被告会社従業員堀田誠が、対向車線上から右道路西側ドライブインに入ろうとして突然バツクで原告羽場の直前に出て来たため、避けることができず、その前部が被告車の側面に衝突した。

(四) 傷害の内容 原告羽場は、両膝打撲挫創、頸部挫創、左大腿部打撲擦過創、腰部挫傷、左拇指挫創、右足打撲傷の傷害を受け、左腰部より左大腿に亘る神経痛および知覚鈍麻、歩行時左下肢の著名な鈍痛という後遺症(自賠責等級一二級)を残した。

2 帰責事由

(一) 被告は本件加害車両を所有し、その営む運送業のために使用していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条により原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告車の運転車の堀田は、後進して反対車線を横切るのに際しては、対向車の有無その他安全に充分注意して後進すべき注意義務があるのに、原告羽場運転の対向車が北進して来ているのを見過ごしたか、安易に横切れると軽信したためか、前記注意義務に違反して後退したため本件事故を惹起したもので、本件事故は、全面的に右堀田の過失によるものである。

被告は右堀田の使用者であり、堀田は当時被告の営む運送の任事に従事していたのであるから、被告は民法七一五条に基づき本件事故により生じた原告羽場及び原告会社の損害を賠償する責任がある。

3 損害

(一) 原告羽場の損害

(1) 治療費

原告羽場は、左記の治療費(診断書作成料を含む)を支払つた。

(イ) 塩尻病院 一八万一七四〇円

(ロ) 員弁厚生病院 一万一五〇〇円

(2) 休業損害

同原告は事故後昭和五五年一月五日まで計一二二日欠勤し、その後は通院しながら勤務した。同原告は昭和五三年八月九日から原告会社に勤務し、月給及び諸手当の支給を受け、三か月以内一般の給与体系に基づく給与の支払を受ける約束であつた。

原告の給与は、八月の勤務日数一三日で、一日当り金六五四三円であつたので、休業損害は金七九万八二四六円となる。

6.543(円)×122(日)=798,246(円)

(3) 付添費

塩尻病院入院中の七日間は付添が必要だつたので、同原告の妻がこれに当たつた。従つてその付添費は、金一万七五〇〇円である。

2,500(円)×7(日)=17,500(円)

(4) 入院中雑費

同原告は、塩尻病院に七日、員弁厚生病院に八七日入院したので、その間に要した雑費は、金五万六四〇〇円となる。

600(円)×94(日)=56,400(円)

(5) 後遺症による逸失利益

同原告は、昭和一八年四月三日生れであるが、前記の後遺症により、長距離運送に従事することができず、現在市内配達のみを担当している。そのため、収入は従前に比し二〇ないし三〇パーセント減少となつており、今後就労可能な三一年間にわたつて、この状態は続くものと考えられる。昭和五四年度の年収は金一三五万八九〇〇円であるので、これを基準に二〇パーセント減として逸失利益を計算すると、金六二五万八〇七四円となる。

{(1,358,900(円)÷0.8)-1,358,900(円)}×18.421=6,258,074(円)

(18.421は31年のホフマン係数)

(6) 慰謝料

同原告は、前記傷害のため前記のとおり塩尻病院及び員弁厚生病院に入院後、昭和五三年一二月七日から昭和五四年六月五日までの間(一八一日)員弁厚生病院に通院した(実日数二八日)。よつて、入通院に関する慰謝料は金一二六万円が相当である。

また同原告は前記後遺症で苦しんでいるが、その慰謝料としては金一三〇万円が相当である。

(二) 原告会社の損害

(1) 積荷損

原告車は多くの荷を積んでおり、本件事故により多数の荷が破損した。その中で、最終的に左記の通りの合計金一九万三二二二円を荷主に賠償した。

(イ) デンヨー株式会社 三万四四六〇円

(ロ) 斉木商店 八三七二円

(ハ) 三重ホーロー株式会社 三万六六六〇円

(ニ) 富士物流株式会社 五万三七三〇円

(ホ) 井村屋製菓株式会社 三万三〇〇〇円

(ヘ) タナカ産業株式会社 二万七〇〇〇円

計一九万三二二二円

(2) 自動車の損害

被害にあつた原告車を修理すべく見積らせたところ、金一三四万九〇〇〇円となり、修理費の方が車両の価値よりも高くなるため、廃車にして新しい車両を購入した。被害車両の事故当時の価額は金一四〇万円であつたので、これが損害である。

(3) 休車損害

原告会社は右のように新しく車両を購入したが、これが納入されたのは、事故後三〇日経過した一〇月四日であつた。そのため、その間三〇日は利益を上げることができなかつた。原告会社での被害車両の事故前三か月の平均利益を基準に休車損害を算出すると、別表のとおり金一四万二二六九円である。

(4) レツカー代等

原告車を現場から移動するため使用したレツカー代金二万五〇〇〇円、長野三菱ふそう自動車までの牽引料金五万五三五〇円、同所から名古屋三菱ふそう自動車まで原告会社が運んだ運送料相当額金五万円、合計金一三万〇三五〇円の損害を受けた。

(5) 原告羽場の転送費

原告会社は、同社の車で原告羽場を塩尻病院から員弁厚生病院まで運んだ。その送料は、金五万円が相当である。

4 損害の填補

原告羽場は、自賠責保険から合計金三二九万円(うち、後遺症補償として金二〇九万円)の支払を受けた。

5 弁護士費用

原告羽場は原告訴訟代理人に本訴訟を委任し、着手金および費用として金二八万円を支払い、報酬として金五〇万円を支払うことを約したが、右のうち金六〇万円は、本件事故に基づく損害である。同じく原告会社は着手金および費用として金一二万円を支払い、報酬として金二〇万円を支払うことを約したが、右のうち金二〇万円は本件事故に基づく損害である。

6 結論

よつて、被告に対し、原告羽場は金七一九万三四六〇円、原告会社は金二一一万五八四一円、及び右各金額に対する訴状送達の日の翌日である昭和五五年九月一一日以降支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、(一)及び(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、原告羽場が大型自動車を運転して右道路を北進中であつたこと、被告会社所有の大型貨物自動車を運転した被告会社従業員堀田誠が対向車線上から右道路西側のドライブインに入ろうとしていたこと、原告翌場運転の車両の前部が被告車の側面に衝突したことは、いずれも認めるが、その余の事実は否認する、同(四)の事実は不知。

2 同2のうち、被告会社が堀田の運転していた車両を所有し、その営む運送業のため使用していたことは認めるが、責任については争う。

3 同3の事実及び主張は、いずれも否認ないし争う。

4 同4の事実は認める。

5 同5の事実は不知。

6 同6は争う。

三  抗弁

1 被告被用運転手堀田誠は、後記のとおり無過失であり、本件事故は原告羽場の一方的過失により発生したものであるから、被告会社には責任がない。

(一) (本件事故発生までの状況)

訴外堀田は、請求原因1記載の日時に、同記載の場所を松本方面から名古屋方面に向つて南進中、道路西側のドライブインに入ろうとしたのであるが、同ドライブインの駐車場にはトラツク数台が駐車していて、前部からの進入は無理な状態であつたため、後部から後退で進入することにし、一旦運行方向車線を約七・五メートル進行したうえ停車し、同所で後方に車のないことを確認したうえ同車線を中央線に寄せながら、約七・五メートルバツクした。そこであらためて対向車線に入る前に、前方左右を確認したところ、原告羽場運転車両が、被告車の前方約四五メートルの地点に進行中であることを認めたが、車両の車間距離はまだ充分あつたし、原告車もそれほどスピードを出しておらず、むしろ減速して安全に進路を譲つてくれるような気配が認められたので、安んじてドライブインに進入することができるものと考え、ハンドルを右に切つてバツクで対向車線に進入した。ところが原告車は、その後衝突に至るまで全く減速徐行することなくノーブレーキのまま漫然従前速度のまま進行してきたため、衝突直前衝突を察知して停車した被告車の右側面に原告車の前部が衝突、本件事故が発生するに至つた。

(二) (本件事故現場の道路規制と制動距離との関係)

本件事故現場の道路は、制限速度毎時五〇キロメートルの速度規制のある道路であつた。そこで原告車が、毎時五〇キロメートルの右制限速度を遵守して進行していたとすると、もつとも一般的な場合の制動距離表によると、二三・九メートルの制動距離があれば完全に自車を停車することができた計算であつた。

(三) (原告の注意義務の内容)

およそ自動車を運転する者は道路交通法などの法規に定める基準に従つて運転すれば足りるものでなく、進路前方にある人畜物体の位置挙動などを考えてこれに危害を及ぼすことのないように、前方注視を厳にし、具体的状況に応じて減速徐行するとか、場合によつては、停止するなど、臨機の措置をとるべき業務上の注意義務のあることは当然である。

(四) (原告羽場の過失)

被告車が後退を開始した時点における原告車との間隔位置は、前記のとおり制動距離二三・九メートルのほゞ二倍近い四五メートルあつたということであるから、原告羽場において進路前方を十分注視し、進路前方の障害物をいちはやく察知し、衝突を避けるため適宜減速徐行するとか、場合によつては急停車するなど、進路前方の具体的状況に応じた適切妥当の措置を講じていたら、本件事故は、絶対に発生しなかつた筈である。

しかるに原告羽場は、過労のため居眠り運転しており、自動車運転者としての基本的義務である前方注視義務を怠つたため、被告車が進路前方を後退していたのに全く気づかず、このため減速徐行等の臨機の措置も全然とることなく、ノーブレーキのまま漫然進行した過失により本件事故を発生させたものである。

よつて本件事故は原告羽場の一方的過失により発生したというべきである。

(五) (堀田の無過失)

訴外堀田は、対向車線に入るについては、前方左右の安全を確認し、原告車が、四五メートルという遠方にあり、しかも原告車はそれほどスピードを上げておらずむしろ減速するような原告車の動静から安全に進路を譲つてくれる気配が認められたので、安んじて後退を開始したものであり、この四五メートルという両車の位置間隔や原告車の速度、動静からみて、原告車が堀田のために進路を譲つてくれたものと信頼したとしても無理からぬものがあつた。

一般に、自動車運転者は、対向運転者もまた前方左右を注視しいやしくも進路前方の障害物との衝突を回避するため適切な行動に出るものと信頼して運転すれば足り、あえて居眠り等により全く進路前方の被告車に気づかないといつた原告羽場のごとき無暴な運転者のあることまで予見して運転すべき注意義務はないので、堀田については本件事故発生につきなんら過失は認められない。

2 過失相殺

仮に、被告会社が免責されないとしても、被告側の過失は二、原告側の過失は八である。

四  抗弁に対する認否

被告主張の抗弁は否認ないし争う。請求原因2で述べたとおり、本件事故は全面的に堀田の過失によるものである。

(反訴について)

一  反訴請求原因

1 発生した事故の内容

(一) 日時 昭和五三年九月五日午前三時

(二) 場所 長野県塩尻市大字宗賀五一〇一番地の三先道路

(三) 加害車 大型貨物自動車(三重一一い三三一〇号)

(四) 加害運転手 原告羽場邦弘

(五) 被害者 被告

(六) 事故状況 原告羽場は、右日時ころ、原告会社所有の右加害車を運転して右道路を北進中、折から対向車線上から右道路西側のドライブインに入ろうとしていた被告会社の従業員である堀田誠運転の大型貨物自動車(名一一か八〇三三号)の側面に自車前部を衝突させた。

2 責任原因

原告会社の従業員である原告羽場は、前記道路を進行するにあたり、前方注視を厳にし、具体的状況に応じて減速徐行し、あるいは停止するなど臨機の措置をとるべき注意義務があつたのにこれを怠り、漫然進行した過失により前記事故を惹起せしめたものであるから、直接の不法行為者として民法七〇九条により、被告が被つた後記損害を賠償する責任がある。

原告会社は、自社の営む貨物運送に従事する自動車運転手として原告羽場を雇用していた使用者であり、本件事故発生当時も、原告羽場を原告会社がその顧客から運送依頼を受けていた運送品の運送業務に従事せしめていたところ原告羽場が右のような過失により本件事故を惹起したものであるから、原告会社は民法七一五条に基づき本件事故による被告の損害を賠償する責任がある。

3 損害

(一) 車両修理代 金三一万〇五〇〇円

株式会社丸輪自動車整備で被告車を修理した修理代

(二) 休車損害 金一九三万九〇九五円

本件事故により被告車が、四一日間休車を余儀なくされたことによる一日当り金四万七二九五円の割合で計算した四一日間分の休車損害

(三) 諸雑費 金一万〇四〇〇円

本件事故により被告が支出を余儀なくされた修理出張費金四二〇〇円、事故処理出張費金三五〇〇円、同日当金一五〇〇円並びに交通費金一二〇〇円の合計

(四) 弁護士費用 金三〇万円

被告が、被告代理人に本件反訴の提起とその追行を委任し、着手金二〇万円、成功報酬金三〇万円の支払を約した計金五〇万円のうち、本件事故と相当因果関係ありと認められる金三〇万円の弁護士費用

4 結論

よつて被告は、原告らに対し、連帯して前項損害金合計金二五五万九九九五円及び内金二二五万九九九五円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五三年九月六日から支払ずみまで、内金三〇万円に対する反訴状送達の翌日である昭和五五年一二月九日から支払ずみまで、それぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1の事実は認める。

2 同2は争う。本件事故の責任は全面的に被告側にある(本訴請求原因2の(二)参照)。

3 同3は否認ないし争う。特に、被告の主張する休車損害金一九三万九〇九五円は、原告のそれと対比しても明らかなように、到底信用できない。

4 同4は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

1  昭和五三年九月五日午前三時ころ、長野県塩尻市宗賀五一〇一の三先道路において、原告羽場が大型貨物自動車(三重一一い三三一〇、原告車)を運転して北進中、折から対向車線上から道路西側のドライブインに入ろうとしていた被告会社従業員堀田誠の運転する大型貨物自動車(名一一か八〇三三、被告車)の側面に、原告車が衝突する交通事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

2  証人渡部忠男の証言により成立を認めうる甲第七号証の二、原告羽場の本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一一号証の一(原本の存在については当事者間に争いがない。)、二、証人下里昭二の証言により成立を認めうる乙第一号証、右渡部、下里の各証言、原告羽場本人の供述によれば、右事故により、原告羽場は両膝打撲挫創、頸部挫傷、左大腿部打撲擦過創、腰部挫傷、左拇指挫創、右足打撲傷の傷害を受け、原告車、被告車ともそれぞれ損傷したことが認められる。

二  当事者の責任

1  被告が被告車を所有し、その営む運送業のために使用していたことは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証はないから、被告は被告車の運行供用者であつたと認められる。よつて、被告は、運行供用者として、自賠法三条に基づき、本件事故により原告羽場に生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

2  成立に争いのない甲第一三号証の一、二、証人渡部忠男の証言により成立を認めうる甲第一四号証の一ないし四、証人下里及び同堀田の各証言により本件事故現場付近を撮影した写真であることが認められる乙第四号証、原告羽場本人の供述、証人堀田、同下里の各証言によると、次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、南北に通じる片側一車線、追越しのための右側部分はみだし禁止の規制のある国道一九号線である。最高速度は、毎時五〇キロメートルに制限され、また駐車禁止となつている。事故現場からの見通しは、南北いずれもよく、特に南方向への見通し(被告車から原告車の方向への見通し)は三〇〇メートル以上にわたつてきわめてよい。

被告車の運転手の堀田誠は、当日午前三時ころ、北から南へ向けて本件事故現場に差しかかり、道路西側(被告車の進行方向から見て右側)のドライブインの駐車場に入ろうと考え、現場付近の自車線上に一旦停止した。堀田は右ドライブインへはバツクで入ろうと考え、対向車を一台やり過ごした後、その後ろの対向車を見るとまだ少し先にいるように思われたので、ゆつくりとバツクを開始した。一方、原告羽場は原告車を運転して、南から北へ向かつて時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で本件事故現場に差しかかつた。そして自己前方約六五メートルの対向車線上に被告車を認め、同車の堀田運転手が運転席から顔を出しているのに気づいたが、それ以上の特段の注意を同車の動向に対して払わず、ドライブインの方を脇見していて、再び視線を前方に移した時、約一七、八メートル前方の自車線上に被告車がバツクで斜めに進入しているのを発見し、咄嗟に急ブレーキをかけたが、制動がかかる間もなく、自車前部が被告車の運転台後部から荷台部分にかけての右側面に衝突した。衝突時の被告車の状態は、丁度道路と直角の状態であり、その先端部が道路中心線あたりに来ており、全長の半分以上が車道外に出ている状態であつた。また原告車の衝突時の速度は、時速約四三キロメートルであつた。

3  ところで、被告車を運転していた堀田誠は、本証人尋問において、バツクを開始したときの原告車との距離は二〇〇ないし二五〇メートルであつたと証言するが、甲第一三号証の一及び同人の証言によると、被告車はバツクを開始してから衝突するまでに約一五、六メートル移動したことが認められ、同車の後退速度は時速約七キロメートルであつたから(堀田の証言によつて認める。)、これにより計算すると、同車は後退開始から約八秒後に原告車と衝突したものと認められる。他方、前掲甲第一四号証の一ないし四によれば、衝突一〇秒前の原告車の速度は時速約六〇キロメートルであり、同車はその後減速状態を続け、時速約四三キロメートルの速度で被告車に衝突していることが認められるので、この事実によれば、被告車の後退開始時における原告車との距離は一一〇ないし一二〇メートル前後であつたと認めるのが相当である。

被告車としては、対向車の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設である本件ドライブインに入るため、対向車線を横切つてはならない義務が存するところ(道路交通法二五条の二)、時刻が午前三時という深夜であつて、本件道路がきわめて見通しのよい直線の道路であることからすれば、通行車両が制限速度(毎時五〇キロメートル)を毎時一〇キロメートル程度超える速度で進行して来ることがあり得ることは自動車運転手としては充分に予期し得べきであること、被告車両の全長が一〇・五八メートルであること(甲第一三号証の一)、後退するについては、前進に比較して、それ自体運転操作や速度に制約があるうえ、本件ドライブインの駐車場の入口が広くなく(堀田証言により認める。)より慎重な運転が要求されたこと等の事情を考慮すると、本件の右認定の状況下においては、被告車がドライブインに入るため後退した場合には、対向車である原告車の正常な交通を妨害するおそれがあつたのはもとより、対向車の対応次第では衝突の危険も予期しえたと認められる。従つて、被告車の運転者の堀田は、発進に際し原告車との距離・その動向の把握が不十分であつたというべきであり、更に、原告車が三十数メートルの距離に迫つて危険を感ずるまでの間の原告車の動向の注視・把握も不十分であつたと認められ、堀田には本件事故について右の過失があつたというべきである。

他方、原告車の運転手の原告羽場も、前認定のとおり、脇見をするなど、自車の進路前方の注視を怠つたものであるから、その点について過失があつたというべきである。

4  右のとおり、原告羽場(原告車の運転手)、訴外堀田誠(被告車の運転手)のいずれも、本件事故について過失が認められるので、原告羽場の損害について被告は免責されないというべきである。また、右堀田が本件事故当時被告の従業員であり、被告の営む運送業に従事していたことは、当事者間に争いがないので、被告は原告会社に生じた損害についても賠償する責任があるというべきである。

次に、原告羽場が本件事故当時原告会社の従業員であつたことは当事者間に争いがなく、原告羽場本人の供述により、同人は当時原告会社の営む運送業に従事していたことが認められるので、原告羽場及び原告会社は、連帯して、本件事故により被告に生じた損害を賠償すべき責任があると認められる。

5  原告羽場と訴外堀田の過失割合

前記2、3に認定した事実を総合すると、右両者の過失の割合は、原告羽場が三五、訴外堀田が六五とするのが相当である。

三  損害関係

(原告羽場の損害について)(本訴)

1  治療費 金一九万三二四〇円

成立に争いのない甲第一五号証の一ないし五によれば、同原告の治療費(診断書作成料を含む)として、塩尻病院につき金一八万一七四〇円、員弁厚生病院につき金一万一五〇〇円を要したことが認められる。

2  付添費 金一万七五〇〇円

前掲甲第一一号証の一、二、第一五号証の一ないし五及び弁論の全趣旨によると、原告羽場は、本件事故により前記一の2のとおりの傷害を受け、昭和五三年九月五日(事故当日)から同月一一日まで長野県塩尻市内の塩尻病院に入院し、同月一一日三重県員弁郡内の員弁厚生病除に転院して、同年一二月二六日まで同病院で入院治療を受けたこと、塩尻病院入院中は付添看護を必要とし、同原告の妻がこれに当たつたことが認められる。

右事実に照らし、七日間につき一日二五〇〇円の付添費を認めるのが相当である。

3  入院雑費 金五万六四〇〇円

右2に認定した事実に照らし、入院雑費として、一日につき六〇〇円の割合による九四日分を認めるのが相当である。

4  休業損害 金九二万四一二七円

原告羽場本人の供述により成立を認めうる甲第一二号証の一(但し、原本の存在は当事者間に争いがない)、第一六、第一七号証、前掲甲第一一号証の一、二、第一五号証の一ないし五、並びに原告羽場本人の供述を併せると、原告羽場は昭和五三年八月一六日ころ原告会社に入社し、長距離運送の仕事に従事していたこと、入社後三か月間は試用期間として、同じ業務に従事する者よりも低額の固定給を支給されていたこと、同原告は、本件事故により前記一の2の内容の傷害を受け、前記2に認定のとおり入院治療を受けた後も、通院治療を続け、昭和五四年六月五日に症状が固定し、前記員弁厚生病院でその旨の診断を受けたこと、その間同原告は、事故日より右症状固定までの間に少なくとも一九二日の休業を余儀なくされたこと、以上の事実を認めることができる。

また、前掲各証拠によれば、試用期間中の昭和五三年一一月一五日までは、一か月の収入は金八万五〇五三円を下らず、それ以降については、同時期入社、同様の年齢・業種の原告会社従業員の収入に照らし、同原告の原告会社からの収入は月額一八万円を下らなかつたものと認められる。

以上の事実によつて、原告羽場の休業損害を算定すると、次のとおり金九二万四一二七円となる。

昭和五三年一一月一五日まで

85,053(円)÷30(日)×(26+31+15)(日)=204,127(円)

昭和五三年一一月一六日以降

180,000(円)÷30(日)×(192-72)(日)=720,000(円)

5  後遺症による逸失利益 金三八五万六六二九円

成立に争いのない甲第一八号証の一、二、前掲甲第一一号証の一、二、原告羽場本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、同原告の症状は昭和五四年六月五日固定し、腰部から左大腿部にわたる鈍痛、左大腿部から下腿にかけての知覚鈍麻という後遺症を残したこと、右後遺症は、自動車損害賠償責任保険上、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一二号の認定を受けていること、原告羽場は昭和五四年一月六日に一応職場に復帰したが、体の調子が思わしくなく、通院治療を受けながら、腰痛や腰部の損傷から来ると思われる腹痛のため、たびたび欠勤したこと、症状固定後も、昭和五四年の夏と、昭和五五年の九月から一一月にかけて、前記の腹痛のため入院したこと、そのため、復職後も、従来の長距離輸送の業務に就くことができず、昭和五六年五月に他の会社に移るまで、配置替えをしてもらい、収入のやや下がる近回りの配達や営業関係の仕事に従事していたこと、以上の事実が認められる。

そこで、右事実を総合勘案するならば、原告羽場は、症状固定の時から一五年間その労働能力の一四パーセントを喪失し、更にその後の一〇年間労働能力の五パーセントを喪失するものと認めるのが相当である。そして、同原告は、本件事故に遭わなければ、前認定のとおり少なくとも月額一八万円の収入額を得ることができたと認められるので、右の額を基礎として前記労働能力喪失割合を乗じ、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除すると、逸失利益の額は次のとおり金三八五万六六二九円となる。

180,000(円)×12×0.14×10.9808+180,000(円)×12×0.05×(15.9441-10.9808)=3,856,629(円)

(注) 10.9808は15年、15.9441は25年のホフマン係数

6  慰謝料 金二五〇万円

前述した原告羽場の受傷及び後遺症の程度・態様、その治療経過、その他本件弁論にあらわれた諸般の事情に照らし、本件の慰謝料は、入通院分につき金一二〇万円、後遺症分につき金一三〇万円がそれぞれ相当と認める。

7  過失相殺

本件においては、前認定の過失割合に従い、三五パーセントの過失相殺をするのが相当である。前記1ないし6の合計損害額金七五四万七八九六円に右の過失相殺をすると、金四九〇万六一三二円となる。

8  損益相殺

原告羽場が自賠責保険から合計金三二九万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないので、右金額を前項の損害額から控除すると、金一六一万六一三二円となる。

9  弁護士費用 金一三万円

本件事案の性質、訴訟の経過、認容額等に照らし、原告羽場が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用は、金一三万円が相当と認める。

よつて、原告羽場のいまだ填補されない損害額は、金一七四万六一三二円となる。

(原告会社の損害について)(本訴)

1  積荷の損害 金一九万三二二二円

証人渡部忠男の証言及びこれにより成立を認めうる甲第一号証の一ないし一二、第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし一三、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし三によると、原告会社は本件事故により、原告車に積載していた荷のうち、本訴請求原因3の(二)の(1)の(イ)ないし(ヘ)の各損害(合計金一九万三二二二円)を被つたことが認められる。

2  自動車の損害 金一三三万円

証人渡部忠男の証言及びこれにより成立を認めうる甲第七号証の一、二によると、原告車の修理見積額は金一三四万九〇〇〇円であり、同車の事故直前の価額は金一四〇万円であつたこと、そこで原告会社は同車の修理を取りやめ、スクラツプ代金七万円で同車を廃車にしたことが認められる。右事実によると、車両価額金一四〇万円からスクラツプ代金七万円を控除した金一三三万円が、本件事故による原告車の損害と認められる。

3  休車損害 金一三万九一七六円

証人渡部忠男の証言及びこれにより成立を認めうる甲第八号証によれば、原告会社は損傷した原告車を廃車にして新車(型式、トン数も事故車と同じ。)を購入したが、事故日から納入されるまで三〇日を要したこと、事故に遭つた車両の過去三か月間の運輸収入、経費の額はいずれも別表のとおりであつて、三〇日分の休車による損害は金一三万九一七六円であつたことが認められる(過去三か月の日数は、九〇日でなく、九二日とすべきである。)

4  レツカー代等 金一三万〇三五〇円

証人渡部忠男の証言及びこれにより成立を認めうる甲第九号証の一、二、三によれば、原告車を事故現場から塩尻市内の整備工場へ牽引した費用として金二万五〇〇〇円、同車を同工場から長野県松本市内の長野三菱ふそう自動車まで牽引した費用として金五万五三五〇円、更に同車を三重県四日市市内の名古屋三菱自動車販売株式会社三重支社まで運搬した費用として金五万円をそれぞれ要したことが認められる。そして、原告会社の所在地、原告車の製造会社や種類等の事実に照らすと、右認定の各運搬費用(合計一三万〇三五〇円)は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。

5  原告羽場の転送費 金五万円

証人渡部忠男の証言によると、原告会社は、原告羽場の転院にあたり、同人を塩尻市内の塩尻病院から三重県員弁郡内の員弁厚生病院に、同会社のライトバンで運んだこと、右転送にあたつては、原告羽場の病状を考慮し、原告会社従業員二名をこれに当たらせたことが認められる。右事実に照らし、右転送費としては、原告会社の請求する金五万円をもつて相当と認める。

6  過失相殺

右各損害(合計一八四万二七四八円)についても、前認定の過失割合に従い、三五パーセントの過失相殺をするのが相当である。右の過失相殺をすると、金一一九万七七八六円となる。

7  弁護士費用

本件事案の性質、訴訟の経過、認容額等に照らし、原告会社が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用は、金一〇万円が相当と認める。

よつて、賠償を求め得る原告会社の損害額は、金一二九万七七八六円となる。

(被告の損害について)(反訴)

1  自動車の損害(車両修理代)金三一万〇五〇〇円

証人下里昭二の証言及びこれにより成立を認めうる乙第一号証によると、損傷した被告車の修理費として金三一万〇五〇〇円を要したことが認められる。

2  休車損害 金九九万三一九五円

証人下里昭二の証言及びこれにより成立を認めうる乙第二号証によれば、被告車の休車による損害は一日につき金四万七二九五円と認められるが、被告の主張する休車日数四一日は、甲第一三号証の一及び乙第一号証によつて認められる被告車の損傷の程度・態様、修理費用の額等に照らし長きに過ぎ、相当な休車日数は三週間であると認める。従つて、被告の受けた休車損害は、金九九万三一九五円となる。

3  諸雑費 金一万〇四〇〇円

証人下里昭二の証言及びこれにより成立を認めうる乙第三号証によると、被告は、本件事故により、反訴請求原因3の(三)の各費用を要したものと認められる。

4  過失相殺

被告の損害についても、前認定の過失割合に従い、六五パーセントの過失相殺をするのが相当であり、右過失相殺を行うと、金四五万九九三三円となる。

5  弁護士費用

本件事案の性質、訴訟の経過、認容額等に照らし、被告が賠償を求め得る弁護士費用は、金五万円が相当と認める。

従つて、被告が原告ら各自に対し賠償を請求し得る損害額は金五〇万九九三三円となる。

四  むすび

以上のとおり、原告両名の被告に対する本訴請求は、原告羽場について金一七四万六一三二円、原告会社について金一二九万七七八六円と、これらに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年九月一一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の原告両名に対する反訴請求は、原告ら各自に対し、金五〇万九九三三円と、これに対する反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年一二月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田好二)

別表

〈省略〉

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